「多可町の農業を支え、繋ぐ。」有機JAS認定農家 MKファーム(取材日:令和2年11月27日)

 農場の名前は、眞理子さんの「M」と和義さんの「K」をあわせて付けたもの。「どちらが欠けてもアカン」とおっしゃる仲良し夫婦は、力をあわせて有機農法に取り組んでおられます。
 お二人の野菜は、道の駅山田錦発祥のまち・多可に並ぶとたちまち売れるほどの人気ぶり。その味と質のよさに固定ファンがついているのは間違いありません。
 野菜づくりを始めたことで知ったうれしさと難しさ、熱く抱くこれからの夢を大きな笑顔で語ってくださいました。


幻のにんにく

兵庫県多可町中区安楽田に広がる26アールの畑。このうちの10アールでMKファームの主力野菜「にんにく」が育てられています。贅沢に広くとった畝間の谷が印象的。

 「いかに作物にストレスをかけずにのびのびと育てるか。土が持ついろいろなミネラルをどうすれば野菜に上手く吸い上げてもらえるかを試行錯誤しながらつくっています」(和義さん)

  暖冬だった去年、防草シートを敷いて育てたにんにくは、地温が上がりすぎてしまい成長過多に。加工品の「黒にんにく」は問題なく仕上がったそうですが、生の野菜としては納得のいく出来ではなかったのだそうです。

 「これダメ。出されへん」。眞理子さんのシビアな審査でハネられたにんにくの数々。ご友人たちにあげると「こんなにおいしいのになんで出されへんの?」と不思議がられたと聞きます。自信をもっておいしいと言い切れるものしか出荷しない──、これがお二人のポリシーです。

 昨年の経験から今年は防草シート・黒マルチも使わないやり方、つまり、苗周りを丁寧に「すりぬか」で覆い、草は刈る・手で抜くといった“手間をとことんかける方法”を中尾さんは選びました。

 「『極めよう!』、私ら二人でそう決めているんです。どこへ出してもホンマにすごいと言われる味にしたい。目指すは『どないしたら手に入るんやろ』と言ってもらえるような“幻のにんにく”。多可町の名産品にしたいんです。1個5,000円しても買ってもらえるような、ね。まぁ、その値段は冗談やけどね」。熱く語る真剣な表情が急にいたずらっぽい笑顔に変わります。和義さんの人柄が表れる話し方。引き込まれていきます。

移住をして農夫となる

 中区安楽田は眞理子さんのご実家。若くして多可町を出て大阪で暮らし、そこで和義さんと出会い結婚。眞理子さんの大阪住まいが多可町で過ごした年数を倍近く超えた頃、これからは故郷・多可町で生きると決め、二人そろって“移住”をしてきました。

 きっかけは、長く一人暮らしをされていた眞理子さんのお父さんが病に倒れたことでした。自分亡き後、家と畑はどうなってしまうかが不安で仕方なかったお父さんに「私たちが継ぐ」との言葉で大きな安心を与えたお二人。

 「ご近所には『あそこの子、帰ってきたんやな。またあの家に暮らすんやな』という感じで迎えてもらいました」(眞理子さん)

 「義父も、すでに亡くなっていた義母も本当に評判のいい人たちでしたから、そこの婿さんやったら大丈夫やろうと村の人たちには思われたようです。家、畑、そして親父夫婦が培ってくれた人間関係も含めてこの条件を引き継ごうと決めて多可町に移り住みました」(和義さん)

 それが6年前のこと。大阪では長年広告業の会社を経営していた和義さんは、引退までガンガン仕事をこなしていた熱血社長。農業は一からの挑戦です。やるからには“農”にとことんこだわって、子どもたち・孫たちに安心して食べさせられる野菜をつくりたいと「有機農法」を選びました。

 困難なほう、手間のかかるほうを選ぶのは多分性分。本当に安全でおいしい野菜づくりへの道。一歩一歩は険しくても、結果に得る手ごたえには格段のものがあるようです。

植物生理を知って、学びを活かす。日々是研究

「私たちは有機農法で農業を始め、国が定める基準を守る有機JAS認定を受けているので、化学合成農薬も化学合成肥料も一切使えません。国が認定するJAS法に違反するようなことを少しでもしてしまったら罪に問われます。この畑で何の作物が一番ストレスなく育ってくれるかを見極めるために、この6年で実に100種近くの植え付けを行いました。今やっと、これは全然ダメやわ、これはいけるんちゃうかな、が大体見えてきたところです」(和義さん)

 じわじわと安定的になってきたのは、前述のにんにく含め根菜類なのだそう。6月ににんにくを収穫したら次に植える10月までの間に早生の黒枝豆をつくる、このサイクルが固定してきたのが去年あたりからなのだとか。農業における何もかもが実験であり、データ集めだという和義さん。

 「今回はうまくいった、逆にうまくいかなかった。それぞれに必ず理由はあります。それをわからないままにやっていてもおもしろくない。たとえば『天候不順で今年は全然ダメだった~』ではすまされないんです。我々は経済活動をしているのですから」

 気温がこうならこうしよう、雨がこうならこうしよう、虫がつきそうなら、病気になりそうならetc. 自然の摂理は変えられないからそこは“知識でカバーする形”を確立したいと。

 虫や病気に「薬」で対処できないのが有機農法です。データを集め、知識を駆使し、健康に育つように持っていくにはまず「植物生理」を知る必要があると和義さんは言います。

 「植物っていうのは本当によくできたもんでね、自分のからだが虫に食べられるのを防ぐために自ら毒を出したりもするんです。また、今自身がどのような状態にあるか、何を求めているかを発信もします。『マグネシウムが足りん』とか。その“作物の声”を理解する、育てたい野菜がどんな植物生理になっているかを知る。その上でそれに合う環境をつくってやるのが我々の仕事。作物が持っているDNAをいかに100%開花させてあげられるかが農業のすべて。作物の発する声を理解するってそれは難しいことで、まだまだよく理解できていないけどね」

野菜が認めてくれた土壌

作物を元気に育てるためにMKファームで使っているのは手作りの有機肥料です。どのようなものなのでしょうか。

 「草ってね、長く置いておくと本物の土みたいになるんです。それが『草堆肥』。そして、もみ殻を焼いて『燻炭』にしたもの。それを作る過程でできる『もみ酢』。草と木の枝を燃やして作る『草木灰』。それと『ボカシ肥料』も手作りしています。あとは足立醸造さんでもらってくる『醤油カス』をミキサーで粉砕したもの。足立醸造さんは有機JAS認定蔵ですから醤油カスももちろん有機で安心です。こういう肥料を使っています」(和義さん)

 必要な土壌に必要な分だけこれらの有機肥料を鋤き込みながらつくり上げてきたMKファームの「土」。この土をベースに野菜たちは元気に育ちます。

 「うちのナスなんかは、道の駅山田錦発祥のまち・多可に出すとピカピカに光って並んでいます!」と、眞理子さんはうれしそうな笑顔を見せます。

 「実はナスも長いことダメだったんですが、今ではうまくいくようになってきました」(和義さん)

 それは作物が喜ぶ土になっている証。植物が持てる力を最大限に開花させている現れでしょう。

 「夫が懸命に勉強をして土づくりをしてくれている、それが大前提にあって、あとはそこに私の“主婦の勘”みたいなものを足していってる感じでしょうか」と眞理子さん。“主婦の勘”とは堆肥の量のさじ加減。もう最近では土がほぼ最高の状態になっているため、手を加えるのは最低限、もしくは何もしなくてもいいというところにまで来ているのだとか。息ピッタリのお二人の努力がまさに“実を結び”、MKファームの野菜づくりは佳境へと入ってきたようです。

 「同業の人から『このナスなんでこんなにキレイなん? あんたんとこ無農薬やな? 私らこんなにうまいことできんわ』って驚かれたときは本当にうれしかったです」(和義さん)

 「完熟・朝採りで食べる無農薬野菜のおいしいこと。私たちの野菜は甘い味がします」(眞理子さん)

オーガニックタウン・たか

「夫は、大阪時代は死に物狂いで働いてきましたから、ここ多可町に戻ってきたとき、私は『さぁ私たち、田舎でのんびりしよう。これからは土でもさわってゆったり暮らそう』と思ってたんです。でもそれどころじゃありませんでした。この人、今度は野菜づくりにガーッ!となり出して(笑)。しかも、自分たちの商売だけを考えるのではなくて、『多可町を有機の町にするぞー!』とも言い出して…。えー!? また働きすぎ?って心配ですが、今の仕事は自然とともに・土とともに生きていける仕事。健康的でありがたいことです」(眞理子さん)

食べるものは人の健康に直結します。“農”に生きる者の使命として、真にからだにいい野菜を提供したい─、和義さんの心の内奥に燃える純朴で真摯な思いが人の心を揺さぶり、情熱は伝播し、今、有機に目を向ける生産者さんたちがこの町に増えてきました。

 この町が「オーガニックタウン・たか」と当たり前に呼ばれる日がやってくることを信じて歩み出した中尾さんご夫妻。目指すべき道が見えた人の、清々しい良いお顔をなさっています。

「消費者の方には実際にこの畑に来て、どういうつくり方をしているかを見学してほしいと思っています。現場を見てもらったら有機農法の努力をわかってもらえるんとちゃうかな。そのうえで買ってもらえたら最高やね」


MKファーム 中尾和義 中尾眞理子

(取材・文/井上玲子 写真/まちの駅・たか)